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横浜地方裁判所 平成5年(タ)15号 判決 1999年3月30日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  本件請求

一  藤沢市長による平成四年八月一二日許可同月一三日記載にかかる原告と被告との離婚は無効であることを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  事案の概要

一  本件は、大韓民国(以下「韓国」という。)籍を有する被告が、韓国ソウル家庭法院において原告との離婚審判を得て、藤沢市長の許可により原告を筆頭者とする戸籍簿に右裁判離婚の事実が記載されたが、原告が韓国における離婚審判の不存在又はわが国における承認要件を満たさないことを主張して、原被告間の離婚が無効であることの確認を求めた事案である。

二  確実な書証により明らかに認められる事実

1 被告は韓国籍の女性である。

2 原告と被告は、昭和五六年一月二一日、韓国の方式により婚姻し、昭和六〇年八月一八日、両名の間に長男一郎が出生した。

3 ソウル家庭法院が平成元年四月二六日付けで原告と被告が離婚することを命じた審判書が存在する(以下「本件離婚審判」という。)。

4 原告の戸籍には、同年六月三〇日、韓国ソウル家庭法院における被告との離婚の裁判が確定し、神奈川県藤沢市長が平成四年八月一二日付けの許可に基づき、同月一日右事実を記載した旨の記載がある。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

韓国ソウル家庭法院がなした本件離婚審判の存在及びわが国における効力

1 原告の主張

(一) 韓国ソウル家庭法院が平成元年四月二六日付けで原告と被告が離婚することを命じた審判書が存在するが、右審判の手続は一切行われておらず、右審判書を含む一切の裁判記録は全部偽造されたものである。

右事実は次の事情に照らしてみても明らかである。

(1) 昭和六三年一一月一六日付けの審理調書は、審判長の氏名に金元済と李輔煥という審判長の氏名違いが存在するほか、同一調書内での結果に「延期」と「請求訴訟」という事実、及び言渡部と係属部との違いという暇疵がある。

(2) 本件離婚審判書には親権者指定の記載がない。

(3) 裁判記録の中には、送達関係記載の受付日付を故意に合わせたとみられる部分があり、印の欠落もあり、裁判記録を事前に作成収集したとみられる部分もある。

(二) 仮に、右審判手続が存在したとしても、次の各事由により、右審判はわが国では承認されない無効なものである。

(1) 韓国ソウル家庭法院には、原告に対する裁判管轄権がない。

(2) 第一回目の召喚状が原告に送達されたのは昭和六二年一一月三〇日であるが、送達報告書には同月五日に送達された旨の記載がある。本件離婚審判手続は、原告が同月五日に送達関係書類を受けたことを前提として進められた違法なものである。

(3) 外務省を経由した送達報告書がなく、条約に沿った送達手続がなされていない。

2 被告の主張

本件離婚審判は民事訴訟法一一八条(旧民事訴訟法二〇〇条)各号の要件を充足している。

(一) 同条一号・裁判管轄権の要件について

(1) わが国の法令には、渉外離婚事件の裁判管轄権の分配につき明文の規定が設けられていないが、原則として当該離婚事件の被告住所地国に裁判管轄権を認め、例外的に、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合、その他これに準すべき場合には、原告の住所地国にも管轄権を認めるという法原則(最高裁判所昭和三九年三月二五日判決・民集一八巻三号四八六頁)に則るべきであり、「当該離婚事件の被告側に遺棄にも比すべき有責行為があり、これが別居の原因となり、婚姻自体が回復し難い程度に破綻してしまい、当該離婚事件の原告も離婚を希望するに至った場合」を含むものと考えるべきである。

(2) 被告が原告に対し本件離婚審判請求を提起した当時、原告と被告の間柄は回復困難な程度に破綻していたが、この破綻の遠因は原告の生活態度にあり、原被告間の間柄を決定的に破綻に導いたのは、原告が被告に対して暴力や不可解な言動を繰り返し、特殊な風俗営業に従事させる等虐待ともいうべき行為に及び、被告が逃げ出さざるを得ない状態にまで追い込んで別居するに至ったことにある。このような事実関係がある本件の場合には、前記例外の場合にあたり、被告の当時の住所地国である韓国の管轄裁判所に本件離婚審判の裁判管轄権を認めることができる。

むしろ、かえって被告の住所地国に離婚訴訟の裁判管轄権を認めないのを相当とするような事情は一切ない。このような場合にも「被告住所地主義」を貫くことは、国際私法生活における正義公平の理念にもとるものである。

(3) 以上のとおり、本件の場合には、被告の住所地の裁判所に裁判管轄権を認める例外の場合であり、前記ソウル家庭法院の裁判は、わが国の民事訴訟法一一八条一号に規定する管轄権の要件を充足している。

(二) 同条二号・「敗訴の被告」である原告に対する訴訟開始に必要な呼出しの要件について

(1) 「敗訴の被告」である原告に対しては、ソウル家庭法院担当部が、国際司法共助手続に従い、横浜地方裁判所小田原支部を通じて、本件離婚審判請求書副本及び昭和六三年一月一三日午前一〇時の審理期日召喚状並びに各翻訳文を送達し、原告は、昭和六二年一一月五日午後四時三〇分、神奈川県西秦野郵便局窓口においてこれらの送達書類を受領しているから、原告はこれら訴訟開始にあたっての訴訟書類・呼出状をわが国の適式な特別送達の手続により送達されたのであり、原告は明らかに「訴訟の開始に必要な呼出し」の送達を受けた者である。

したがって、本件離婚審判が同条二号に規定する訴訟書類送達等に関する要件をも充足していることは明らかである。

(2) なお、原告は、被告が右の審判請求書等の送達事実を明らかにする書類を提出する以前には「ソウル家庭法院の訴訟の係属など全く知らなかった。応訴の機会を奪われた判決である。」と主張していた。また、原告は、被告が右送達事実を明らかにする書類を提出した後には「右の送達書類を受領した当時、横浜地方裁判所小田原支部で別件の訴訟を受けていたので、これに関する訴訟書類であると即断して内容を確認しなかった。」などと主張するが、内容確認の有無によって訴訟書類送達の効果が左右されないことは論を待たないところである。

(三) 同条三号・公序良俗適合の要件について

(1) 本件離婚審判は、本件渉外離婚の準拠法に従ってなされているところであり、被告がいわゆる「法廷地漁り」又は「メールオーダー離婚」を意図したようなものでは全くなく、本邦の公序良俗に反しない。

(2) なお、本件離婚審判には未成年の子である「甲野一郎」の親権者を指定せず、この点に関する裁判の脱漏があるが、このように裁判離婚において親権者指定を脱漏した場合の処置については、最高裁判所昭和五六年一月三〇日判決・家裁月報三三巻九号五一頁が「親権者の指定については一審裁判所が追加判決をすべきものである」と判示していることからも、右の脱漏の存在は離婚の裁判自体の効力を左右するものではなく、この親権者指定に関する裁判の脱漏があるからといって、当該離婚の裁判それ自体が無効なものになるものではない。

ちなみに、裁判の脱漏の場合の判決効果については、韓国民事訴訟法一九八条一項が日本民事訴訟法二五八条一項(旧民事訴訟法一九五条一項)の規定とほぼ同旨の定めをしているところであり、また、本件のような場合の親権者の指定については、当事者の協議によってこれを決するか、この協議ができない場合には子の住所地の裁判所の判断を得ればよい。

(3) また、韓国の離婚審判手続の面については、前記のとおり、その手続は日本におけるのと同様に対席の方式で審理され、証拠調べ等は当事者主義による手続によって行われることが認められるのであって、手続面でも公序則に違反するところはない。

(4) したがって、本件離婚審判の内容及び手続が民事訴訟法一一八条三号に規定する公序則に関する要件をも充足していることは明らかである。

(四) 同条四号・相互保証の要件について

(1) 右の要件について、最高裁判所昭和五八年六月七日判決・民集三七巻五号六一一頁は、「『相互ノ保証アルコト』とは、当該判決をした外国裁判所の属する国において、右判決と同種類のわが国の裁判所の判決が、日本民事訴訟法二〇〇条各号所定の条件と重要な点で異ならない条件のもとに効力を有するものとされていることをいうものと解すべきである。」としている。

(2) 韓国民事訴訟法二〇三条は、外国判決の承認について、

外国法院の確定判決は次の条件を具備するときはその効力を有する。

<1> 法令または条約によって外国法院の裁判権を否認しないこと

<2> 敗訴した被告が大韓民国国民である場合に公示送達によらずに訴訟の開始に必要な召喚又は命令を受けたこと、又は、受けずして応訴したこと

<3> 外国法院の判決が大韓民国の善良な風俗その他社会秩序に違反しないこと

<4> 相互の保証があること

と、日本民事訴訟法一一八条と全く同様の規定をしているから、前記最高裁判所の判例に照らして、まさに韓国と日本との間には判決の相互保証があることが明らかである。

(3) したがって、本件離婚審判の事案にあたっては、同条四号の「相互保証」の要件もまた充足されている。

3 以上のとおりで、原告・被告間の婚姻関係は、わが国において承認される外国判決である韓国ソウル家庭法院のなした平成元年六月三〇日確定の有効な離婚審判によって解消されている。

4 なお、原告は、本件ソウル家庭法院の審判につき、種々の非難をするが、その趣旨自体が意味不明なものであるとともに、すべでは独自の見解であるにすぎない。

第三  争点に対する判断

一  本件では、原告は、先ず、本件離婚審判手続は一切行われておらず、偽造文書に基づき戸籍に離婚の事実が記載されたと主張し、そのことを理由に戸籍上に記載された離婚が無効であることの確認を求めるところ、原告の主張が真実であり、必要があれば、本件離婚審判手続がなされたとする韓国の家庭法院において、同国の法律の定めるところにしたがって本件離婚の裁判の不存在無効の確認を求めるのが根本的な解決となることは明らかである。しかし、日本の戸籍に右離婚の事実が記載されていることから、戸籍法一一六条一項の規定の趣旨に基づき、わが国の裁判所においても、右の事由を理由として戸籍上に記載された離婚が無効であることの確認を求めることは、国際的裁判管轄権及び確認の利益のいずれの観点からも、許されるべきである。

また、原告は、本件離婚審判手続がなされたとしても、本件離婚の裁判がわが国で承認されないことを理由として、戸籍上に記載された離婚が無効であることの確認を求める。この点、外国の離婚の裁判については、民事訴訟法一一八条に定める要件を満たせば、執行判決等わが国における裁判を要することなく、当然に承認され、報告的な届出に基づきわが国の戸籍に記載されることから、原告が民事訴訟法一一八条に定める要件を争うために、右要件を満たしていないことを理由として、戸籍上に記載された離婚が無効であることの確認を求めることは許されるべきである。なお、本件離婚の裁判は、平成元年六月三〇日に確定しているが、承認の要件については、まず、民事訴訟法(平成八年法律一〇九号)附則三条本文の規定に基づき、同法一一八条を適用する。

二  前記第二の二の各事実に証拠(後掲)を併せると、次の各事実が認められる。原告本人の供述中、右認定に反する部分は、右認定事実及びその認定に供した証拠に照らして、そのとおりには採用することができない。

1 被告は、韓国で成育した者であるが、昭和五五年ころ韓国釜山市で原告と知り合い、昭和五六年一月二一日に韓国で婚姻届出をした。被告は、昭和五七年八月二〇日に来日して原告と同居生活をするようになった。ところが、原告が婚姻前に「自分は日本の一流新聞の記者である。」と被告に語っていたのは偽りであり、新聞勧誘員として各地を転々としてその生活は安定したものとは程遠かった上、同居生活を重ねるうちに、被告に対し、何かと暴力を振るい、また、不可思議な言動をし、更には、被告に風俗営業で稼働させるようにまでなり、自らは徒食するようになった。その後、被告はスナック勤めをしながら長男を懐妊したが、原告の暴力が止まなかったため、昭和六〇年八月一〇日、臨月を迎えていたにもかかわらず韓国に逃げ帰り、同月一八日、長男一郎を出産した。

2 長男出産直後の同年九月、原告が韓国に来て、被告に対し「日本に戻ってくれれば、仕事を真面目にやる。職場にもきちんと通う。」等と誓約したことから、被告は、同年九月二八日、生後間もない一郎を連れて来日した。しかし、原告は子供のミルク代すらないような状態であるのに全く働こうとせず、被告に対し、従前と同様の暴力を振るって生活費を稼ぐよう強要するようになり、被告はやむなく、秦野市内のスナック等で働かざるを得なかった。被告は、このような境遇に置かれて絶望的な心情になり、同年一一月末ころ、生後数か月の一郎を連れて原告のもとから逃げ出し、秦野警察署、秦野市役所等に赴いて保護を願い出た結果、同月三〇日、秦野福祉事務所の世話で、窮状にある婦女子を保護する施設である神奈川県藤沢市所在の神奈川県立かながわ女性センターに収容され保護された。被告は、同センターで所定の最長収容期間である二〇日間保護してもらったが、他に取り得る方策もなく、金銭的な援助が得られたので、同年一二月一九日、一郎を連れて韓国に逃げ帰った。

3 被告は韓国において自活していたが、原告は昭和六二年に入って来韓し、一郎を日本に連れ戻した。被告は、原告と離婚することを決意し、同年六月、韓国ソウル市において原告との離婚手続を弁護士に依頼し、ソウル家庭法院に原告との離婚を求める審判請求を提起した。

4 原告に対しては、ソウル家庭法院担当部が、国際司法共助手続に従い、横浜地方裁判所小田原支部を通じて、被告の離婚審判請求書副本及び昭和六三年一月一三日午前一〇時の審理期日召喚状並びに各翻訳文を送達し、原告は、昭和六二年一一月五日午後四時三〇分、神奈川県西秦野郵便局窓口においてこれらの送達書類を受領した。送達報告書に押印された印鑑は、原告のものである。

5 被告は、審判手続が進行している間も、一郎のことを考えて原告と復縁できるならばしたいと考え、二回ほど来日して原告と同居した。また、原告が韓国にいる被告を訪ねたことも四、五回あった。被告は、原告に対し、韓国で離婚の裁判が進行中であることを話したが、原告から「何があっても離婚しない。」等といって暴力を振るわれたため、韓国に帰国した。

6 ソウル家庭法院の審判手続は進行して、原告に対する複数回の呼出し等の手続もなされたが、原告は出頭せず、更には転居先不明となった。ソウル家庭法院は、公示送達の方法で原告を呼び出し、審理の末、同年四月二六日、本件離婚審判を下したが、その理由として、原告と被告の戸籍謄本、《証拠略》を総合して、原告が、日本において一定の職業がなく、徒食しながら被告に金員を稼ぐように要求し、何度となく殴打するなどして被告を困窮させたこと、被告はこれらの精神的、肉体的苦痛に耐えることができなくなり、韓国に帰国したこと、その後、原告は行方をくらませてしまったこととの各事実を認定した。本件離婚審判は、同年六月三〇日に確定し、被告は、同年七月一二日、韓国において原告との離婚の届け出をしたが、日本において届け出をすることには思い至らなかった。 7 被告は、平成四年八月になって、藤沢市長に対し、本件離婚審判の謄本等を提出して、原告の戸籍に離婚の事実を記載すべきことを申し出たところ、同市長は同月六日横浜地方法務局藤沢支局長に処理伺をした。同支局長は、同月一二日藤沢市長に対し、本件離婚審判の確定の事実については職権記載すべきことを指示するとともに、戸籍法二四条二項に基づきその許可を与えた。藤沢市長は、右許可により原告を筆頭者とする戸籍簿に右裁判離婚の事実を記載した。

三  争点について

1 原告は、本件離婚審判手続は一切行われておらず、審判書を含む一切の裁判記録は全部偽造されたものであると主張する。

しかしながら、《証拠略》については、その方式及び趣旨により韓国の家庭法院の審判官、書記官等が本件離婚審判の審理のために職務上作成した審判書の正本及び調書の写しであると認められ、これによれば、民事訴訟法二二八条五項、二項の規定により、これらの書類又はその原本は真正に成立したものであると推定される。同書証によれば、本件離婚のための審判手続は真実行われたものと認められる。なお、同調書によれば、第一回及び第二回審理期日の審判長は李輔煥であったところ、第三回以降は金元済に交替し、第三回審理期日は原告に対する送達が不能であったため手続は延期となったが、原告に対する公示送達がなされた第四回審理期日は、従前の審理結果の陳述がなされて審理が更新されているから、審判長の氏名違いについては手続的に何ら問題はなく、審判長の氏名の違いをもって右推定が覆されるものではない。

その他、右審判の手続が一切行われておらず、右審判書を含む一切の裁判記録は全部偽造されたものであるとの原告の主張を認めるに足りる(すなわち、右審判書の正本や調書の真正な成立の推定を覆すに足りる)証拠はないから、原告の主張は認められない(なお、親権者の指定については後述する。)。

なお、原告は、その提出した数多くの準備書面において、大韓航空機爆破事件の犯人とされる蜂谷マユミこと金賢姫の本名は被告と同一の乙花子であり、被告と生まれた年、身上及び身体の特徴が被告と似ていることから、互いに相手になりすまし、第二、第三の大韓航空機爆破事件を引き起こそうとした、蜂谷真一こと金勝一は、被告の後婚の夫である丙川竹夫の本籍地と極めて近い場所にアジトを有していたことから、丙川竹夫と被告とが偽装婚姻をするため、韓国の裁判所や日本の裁判所等が結託して本件の離婚の裁判を作り上げた等と主張し、右主張を裏付けるために数多くの証拠を提出する。しかし、本件全証拠によっても、被告、丙川竹夫並びに韓国の裁判所及び日本の裁判所の職員が第二、第三の大韓航空機爆破事件を引き起こそうとしたり、これに加担したものとは到底認めることはできない。

2(1) 民事訴訟法一一八条一号にいう「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること」とは、当該外国の裁判所が日本の国際民訴法の原則からみて、その事件につき国際裁判管轄権を有すると認められることをいう。

日本の国際民訴法の原則からすれば、渉外離婚事件については、原則として当該離婚事件の被告住所地国に裁判管轄権を認め、例外的に、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合、原告の住所地国にも管轄権を認めるのが相当である。そして、その他これに準ずる場合とは、被告住所地主義を貫くことが原告に酷であり、国際私法生活における正義公平の理念に沿わない場合をいい、被告に遺棄にも比すべき有責行為があって、これが国境をはさんでの別居の原因となり、婚姻が回復しがたい程度に破綻している場合はこれに該当すると解するのが相当である。

前記一に認定した事実によれば、本件における被告が韓国で離婚審判を提起した当時、原告と被告の間柄は回復困難な程度に破綻しており、この破綻の原因は、原告が被告に対して暴力や不可解な言動を繰り返し、特殊な風俗営業に従事させる等虐待ともいうべき行為に及び、被告が韓国に逃げ出さざるを得ない状態にまで追い込んだことがあったものと認められる(本件離婚審判も、理由の中でそのように認定している。)。このような事実関係の認められる本件においては、離婚審判の被告である本件原告の住所地国である日本のみが国際的裁判管轄権を有するとすることは、本件被告に酷であり、国際私法生活における正義公平の理念に沿わないから、前記例外の場合にあたるものとして、被告の当時の住所地国である韓国(被告の本国でもある。)の管轄裁判所にも本件離婚審判の裁判管轄権を認めるのが相当である。

(2) 同条二号が「敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと」を要件とした趣旨は、手続開始についての通知を要求することによって、訴訟係属を知らないうちに判決がなされる等の事態から敗訴被告を保護することにあると解するのが相当である。

原告は、前記一に認定のとおり、昭和六二年一一月五日午後四時三〇分、神奈川県西秦野郵便局窓口において、本件離婚審判請求書副本及び昭和六三年一月一三日午前一〇時の審理期日召喚状並びに各翻訳文を受領しているから、訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達を受けており、訴訟に出頭する機会を与えられたから、同条二号の要件を充足しているということができる。このことは、原告が受領した召喚状等の内容を実際に確認したか否かによって左右されるものではない。

仮に、原告が送達関係書類を受け取ったのが昭和六二年一一月五日ではなく、原告主張のとおり同月三〇日であったとしても、第一回審理期日は昭和六三年一月一三日であったから、訴訟係属を知らないうちに判決がなされる等の事態から敗訴被告を保護するという同条二号の趣旨に照らせば、敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達を受けたという要件を充足しているといいうることに変わりはなく、昭和六二年一一月五日に送達がなされたことを前提として審判手続が進行したことに違法はない。

(3) 同条三号は、「判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと」と規定している。

まず、本件離婚審判の内容についてみるに、本件離婚審判は未成年の子である甲野一郎の親権者を指定していないが、離婚判決において親権者の指定の脱漏があった場合には、当該判決をした裁判所が追加判決をすべきとする被告引用にかかる最高裁判所判決に鑑みれば、右の脱漏の存在は離婚の裁判自体の効力を左右するものではないから、この親権者指定に関する裁判の脱漏があるからといって当該離婚の裁判それ自体が無効となるものではなく、本件離婚審判の内容が日本における公序良俗に反するものでないことは明らかである。

次に、本件離婚審判の手続については、前記一に認定のとおり、原告は、昭和六二年一一月に訴訟の開始に必要な呼出しを受けて被告が韓国で離婚の審判を請求してその手続が行われていることを知り、審判に出頭する機会を与えられながら、あえて出頭しなかったのであるから、原告が不出頭のまま進められた審判手続が、日本における公序良俗に反するということはできない。なお、《証拠略》によれば、本件離婚審判の昭和六三年六月一五日の期日及び同年一一月一六日の期日については、いずれも国際司法共助手続により原告に対する送達が試められたが、前者については、原告が不在であり、留置期間の一〇日が経過したことにより、また、後者については、原告の転居先不明のため、いずれも送達ができなかったこと、このため、平成元年二月一五日からの期日は、原告に対して公示送達による呼出しがされたことが認められる。この点、昭和六三年一二月五日付けの空港グランドサービス株式会社の被告に対する請求書によれば、被告の住所は「神奈川県《証拠略》」の原告方となっているから、被告が原告の転居先を知っていたことが推認できるが、原告は、前記一に認定のとおり、第一回審理期日の呼出しを適法に受けて韓国で離婚の裁判が開始することを知り、その後も、被告からの話により、右裁判が進行中であることを知りながら、自らの意思で出頭しなかったのであるから、原告が適法な呼出しを受けた後の転居先を被告が韓国のソウル家庭法院に届け出なかったからといって、被告が原告の出頭を妨げるためことさら右届出を怠ったことを認めるに足りる証拠はないから、原告不出頭のまま進められた本件離婚審判の手続が公序良俗に反することにはならない。

(4) 同条四号は「相互の保証があること」と規定しているが、これは、当該判決をした外国裁判所の属する国において、右判決と同種類のわが国の裁判所の判決が、日本民事訴訟法一一八条各号所定の条件と重要な点で異ならない条件のもとに効力を有するものとされていることをいうものと解すべきである(最高裁判所昭和五八年六月七日・民集三七巻五号六一一頁参照)。

《証拠略》によれば、韓国の民事訴訟法の二〇三条一号ないし四号は、日本民事訴訟法一一八条一号ないし四号とほぼ同一の内容となっており、韓国において、日本の離婚判決が日本民事訴訟法一一八条一号ないし四号所定の条件と重要な点で異ならない条件のもとに効力を有するものとされているということができるから、同条四号の要件も充足している。

3 したがって、原被告間の婚姻関係は、日本において承認される外国判決である本件離婚審判によって有効に解消された。

第四  結論

よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 南 敏文 裁判官 森高重久 裁判官 永井綾子)

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